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少しだけ、幸せ。    柊 紫苑



三月下旬、東京の某公園。

散歩、というにはかなり寒い夜の公園をゆっくり歩く二人の男子高校生の姿があった。

「へー・・・思うてたより人いるもんやな。こないな時間なのに。」

言いながら平次が見上げた大時計は二十二時を指している。

「ここはな・・。結構いんだよ。満開になったらもっとすごいぜ?みんなビニールシート敷いて宴会になんだからさ」

苦笑しながら新一が見つめた先には、咲き始めたばかりの桜。

平次が来ると聞いたときには桜見物の予定はもちろんなかった。

しかし、異常気象で開花宣言がでてしまったので、せっかくなら、と夜の寄り道をしている二人である。

都内でも有数の桜の名所とあって、大きな桜並木がかなり長く続いていた。

数え切れないほどの枝にぽつん、ぽつん、と花が咲いている。

探さないと見つからないような状況はまだ一分か二分咲き、といったところだろう。

「んーーやっぱちょっと早かったかな・・・」

「俺は満開より、このくらいの方が好きやで?」

ここを鑑賞位置と決めたように、縁石に座った平次の横に新一も座る。

平次はじっと桜を見つめて。

新一は――じっと平次を見つめていた。



桜を見つめる平次の瞳が、とても優しい。

大切な、愛しいものを見るような、視線。

「綺麗やな?」

そのまま新一の方をむいてふっと笑った。

 
一瞬、絡み合う。

不覚にもどきっとしてしまって、新一はあわてて桜へ顔をそらした。

――夜でよかった・・・。

体温があがっているということは当然顔も赤いだろうけど、夜なら暗くて多分ばれてないはずだから・・・。

桜を見ながら違うことを考えている新一の耳が赤いのに気が付いて、平次は微笑んだ。

――その、赤い耳たぶに・・したら、どんな反応するやろな?

でも、人がいないとはいえ、天下の往来だから。

願望を振り切るように、平次はまた桜を見上げる。

新一はそっと平次に視線を戻した。

そこにあるのは、平次の引き締まった唇。

――触れてみたい。

でも、ここは屋外だから・・・。

新一ももう一度、桜を見上げた。


 
どれくらい、そうしていたのだろう。

たわいもない近況報告が途切れたときに、平次が口を開いた。

「桜って―――お前みたいやな・・?」

「は、あ?なんでだよ?」

唐突にいわれた言葉に、新一は思わず聞き返す。

「こないなとこでは言えへん・・・あとで教えたるな?せやけど・・・」

いったん言葉を切って、平次は最高の笑顔を見せた。

「工藤と桜見られて、ホンマ、嬉しいわ・・。」

「ばーろ・・・」

言葉とは裏腹に、新一も微笑んで平次を見る。

数瞬、見詰め合って。

平次がふっと笑った。

「行こか?」

すっと立ち上がって、そのまま歩き始めようとする。

「ああ」

新一も立ち上がったそのとき、平次が振り返った。


―――一瞬、掠めるだけの、キス―――


不意打ちに赤くなって、固まる新一に平次はくすくす笑って、

「寒うなってきたから、な?」

そのまま新一の肩を抱く。

新一は一瞬だけ寄り添って――耳たぶに唇を落とす。

「――続きはあとで、な?」

同じように固まっている平次の腕をすり抜けて、何もなかったように歩き出した。

あわてて追いついてきた恋人を、とびきりの笑顔で迎えながら――。


久しぶりに会う二人の、柔らかな時間。

夜風は冷たいけれど、少し火照った顔には気持ちよくて。


―――こんな幸せが、いつまでも続きますように。



えんど♪


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